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一部の糖尿病治療薬が、美容クリニックなどで「やせ薬」として不適切に使用されるケースが相次ぎ、本来の患者に行き渡らない事態が発生している。
全額自己負担の自由診療で使われたり、健康保険の適用下でも使用されたりしているようだ。減量目的の使用のしわ寄せで、本来、治療を必要とする患者に薬が届かなくなる事態を防がなければならない。
問題になっているのは、「GLP―1受容体作動薬」と呼ばれるタイプの薬だ。インスリンの分泌を促して血糖値を下げるとともに、食欲を抑える働きがある。低血糖や急性膵炎(すいえん)などの副作用も報告されている。
糖尿病ではない人が使用することはリスクが大きく、国民の健康を守るべき医師が治療目的を外れた使い方をするようでは、そもそも「医の倫理」に反する。目的外使用を禁止すべきである。
厚生労働省が医療機関や薬局に薬の適正使用を求め、卸売業者には、本来の目的以外の利用をしている医療機関や薬局に薬を納入しないよう要請した。これだけでは不十分だ。メーカーと卸売業者には、安定供給に努める社会的責務がある。
会社員らが加入する健康保険組合の連合組織「健康保険組合連合会」が、医療機関から出された診療報酬明細書(レセプト)を点検したところ、糖尿病治療に必要な検査が行われていないのに、薬が使われているレセプトが一定数あった。
厚労省には医療界、製薬業界、流通業界などと連携し、不適切な利用を防ぐ仕組みを早急に構築してもらいたい。
目的外利用は今後、さらに広がる恐れがある。新たに「肥満症」を対象にした同じタイプの薬が承認・保険適用されたためだ。ただ、肥満症は健康障害を合併する疾患で、単なる肥満とは違う。やせ薬として処方することを許してはならない。
減量効果が注目され、販売が先行した欧米では人気が過熱して品不足となっている。日本でも複数のメーカーが注射薬や飲み薬を製造・販売している。
インターネット上では「欧米で肥満症の薬として承認されているから安全」「飲むだけでダイエット」などの科学的根拠に基づかない広告も散見される。このような広告の取り締まりを強化することも必要だ。
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2023年12月9日付産経新聞【主張】を転載しています